好きなロゴは何か?と問われれば、NASAのロゴと答える。なぜなら夢があるから。1959年、NASA(アメリカ航空宇宙局)の関係者が考案したロゴで、整理整頓されたプロっぽさはないが、そこがいい。遥か宇宙への想いがストレートに意匠に乗り移っている。宇宙開発をテーマとした多くのアメリカ映画で必ず登場するこのロゴは、見ただけでワクワクさせるチカラを持っていると思う。
25年前に独立して、最初に手がけた仕事はNIKEだった。12年間勤めた会社から引き継いだ仕事もなく、文字通り裸一貫の独り立ちだったが、一緒に仕事を組みたい会社、人のみに作品を見せて回った。最初に訪れたのがワイデン&ケネディで、いきなりサッカーキャンペーンの仕事をいただいた。
プレゼン用にNIKEのロゴデータを送ってもらいレイアウトしてみた。感動した。どこにどう置いてもカッコよくなるからだ。優れたロゴというのは表現そのものをジャンプアップさせる力を持つと知った。
NIKEのスウッシュは、ブランドが持つ志向性を極めてシンプルにそしてシャープに表出させた傑作ロゴの一つだと思う。シューズというプロダクトにこれほどフィットするロゴを他に知らない。
(このNIKEのお仕事は過去に書いたコラムを参照ください。)
ロゴデザインには様々な意図が込められている。視覚的な目印・差別化、理念や想いの可視化、内外に対しての愛着醸成などなど。良いロゴとは、ブランドや商品の性格・雰囲気が滲み出ているものを指すのだと思う。まさに“顔”だ。
デザイナーが初めて手掛けるデザインは、ロゴデザインであることが多いと思う。面倒臭い上司がいるようなクライアントワークではなく、自分や知人のための極パーソナルなロゴマーク。
新人の頃、独立したての同世代カメラマンやスタイリストなどに名刺作らせてとお願いし、勝手にロゴマークを作っていた。仕事が終わった後の深夜、誰にも邪魔されずにロゴをデザインする時間は至福の時だった。出来上がったロゴは純然たる自分の作品であり、いろんなデザイン賞に出品したりしていた。
パーソナルなロゴと言えども、顔になり得ているか?という判断基準は企業のロゴづくりとまったく変わらない。新人デザイナーだったころバカのようにロゴを作りまくっていた日々は、今につながる訓練だったんだなと思う。
(弊社のロゴワーク)
数ヶ月前、知己のI嬢から連絡があった。関わっている住宅メーカーの新しいVIプロジェクトに参加してもらえないかとの依頼だった。とにかくいい会社なのでと説得され、引き受けることにした。簡単な概要を聞いた後、まずは創業社長に会いましょうという話になった。オリエン資料よりも大切な“想い”を直に聞きたかったからだ。
高性能注文住宅を標榜する「Regard/リガード」は、その理念と設計コンセプトが評判を呼び、年々受注を伸ばしている創業13年の新興住宅メーカー。会社の規模も拡大し、次のステップを目指すタイミングで、VI(ビジュアル・アイデンティティ)の再構築を考えているとのことだった。
対面したN社長は、ラガーマンのような躯体と満面のスマイルで、全身これ包容力といった方だった。話題は多岐に及んだが、話の中心にはいつも「人」がいた。お客様、社員、たくさんのステークホルダー。「人」との関係を大切にしながら、それぞれの豊かな「人生」にどう貢献できるのか?を使命とされているんだなと思った。
社長から得たインスピレーションと言葉をそのまま形にしよう。
ステートメントと共に、VIの中核を成すロゴマークを提案した。
人が、まんなか。
リガードの家づくりの中心には、いつも「人」がいます。
お客さまひとりひとりの、想いと夢に向き合い、
想像力と技術を駆使しながら、理想のカタチを創造していく。
リガードがご提供したいのは、“家”の先にある“より豊かな未来”です。
人に寄り添い、人の想いに応えたい。
リガードの家づくりは、『人が、まんなか』です。
ロゴマークは、社名の頭文字Rの真ん中に「人」を配した。親しみを感じるフォルムと安心感のあるどっしりとした構えは、社長と会社の第一印象をそのまま形にした。
先日、社員全員に新ロゴを配した名刺が配られたらしい。手にした顔が少しでも輝いていたら嬉しく思う。
CD, AD / Eiki Hidaka
D / Yuji Ishibashi
Pr / Miki Ishihara