「パッケージのリデザインをお願いできないか?」
ある日、CMディレクターの今村直樹さんからそんな依頼の電話があった。
ある日、CMディレクターの今村直樹さんからそんな依頼の電話があった。
今村さんとは、氏の著書『幸福な広告』の取材対象として出会っていた。『幸福な広告』は、CMディレクターから見た「人と社会が幸福になる広告のありかた」を展望し、実例から考察するこれからの広告の姿や、“地域”の広告がもつ可能性を追って編纂された示唆に富む一冊だ。
郷里宮崎の口蹄疫復興支援にデザイナーとして関わっていた活動『私たちが、今できること。〜宮崎を想う東京の仲間より〜』に目を留めていただき、取材を受けることになったのだ。
取材の過程で、同時期に宮崎で復興支援に尽力されていた知人を紹介した。事態に直面したリアルな現場の声も聞いた方がいいと考えたからだ。それが村岡浩司さんであり、二人の出会いが「パッケージのリデザイン」に繋がっていった。
村岡さんは、レタス巻き発祥の店として有名な「一平寿司」の二代目であり、県内各所にタリーズコーヒーなどの飲食業を展開している青年実業家でもあった。根っからの宮崎ラブな人物であり、事業以外の様々な宮崎経済活性化に精力的に取り組んでいる熱血漢だった。宮崎で出会った二人は意気投合し、頻繁にやり取りするようになったらしい。
『幸福な広告』は無事出版され、今村さんの声も忘れかけていたのだが、久々の連絡が「九州パンケーキのリデザイン」だった。
村岡さんは口蹄疫終息後、新商品の開発に奔走し幾多の障壁を乗り越え「九州パンケーキ」を開発、発売にこぎつけていた。その商品コンセプトである「食のチカラで人と地域をつなげ、九州の魅力を全国に発信していく」という思想に強く共感した今村さんから、九州パンケーキの「オフコマーシャル」を作らないかと提案され、快諾したらしい。そしてもう一つ今村さんから提案を受けていた。「パッケージを変更したい」。
「九州パンケーキ」は発売時にサンプルをいただいていた。九州の原料だけにこだわり、試行錯誤を繰り返してたどり着いた、添加物未使用のもっちり新食感。パッケージも社内でデザインしたという素朴で手作り感のある佇まいだった。
「オフコマーシャル」は、今村さんが懸念を抱いていた「広告主と制作者の信頼関係の喪失」に対するカウンターとして提唱した前代未聞の試みで、要は共感を持った商品・ブランドのコマーシャルを了承を得た上で勝手に作るというものだ。
発注があったわけではないので、あるべき制作目的や予算もない。そのかわり制約もなかった。商品に対する想いを創り手の目線で映像化し、本質的な価値を訴求するという新しいコマーシャルの実験。テレビでのオンエアを前提とせず、制作過程をネット上でオープンにし、出来上がった映像はYouTubeやホームページで公開する。その新作として九州パンケーキをテーマにするという。
「パッケージ変更の了承は得てるんですか?」
商品広告を制作するにあたって、パッケージデザインの変更を要求するという話は聞いたことがない。というか普通ありえないので開口一番そう質問した。発売からまだ半年、宮崎県内とはいえ売れ行きは上々だと聞いていたからなおさらだ。村岡さんの了承は得ているという返答に正直困惑した。
商品広告を制作するにあたって、パッケージデザインの変更を要求するという話は聞いたことがない。というか普通ありえないので開口一番そう質問した。発売からまだ半年、宮崎県内とはいえ売れ行きは上々だと聞いていたからなおさらだ。村岡さんの了承は得ているという返答に正直困惑した。
そもそもなぜパッケージを変えなければならないのか?
明快な理由があったわけではなく「変えた方がいいと思う」というのが今村さんの答えだった。商品が持つポテンシャルと可能性に今のパッケージは追いついていない、ということか。ともかく「顔が大切なんだ」という意思だけは伝わった。
明快な理由があったわけではなく「変えた方がいいと思う」というのが今村さんの答えだった。商品が持つポテンシャルと可能性に今のパッケージは追いついていない、ということか。ともかく「顔が大切なんだ」という意思だけは伝わった。
ドラスティックに変えることは簡単だが、すでに発売され認知されている商品の顔をまったく違うものにはできない。面影を残しつつ進化させるというさじ加減で、現行同様のシール貼りラベル、1色同系色、同じデザインモチーフを前提に、飽きのこないスタンダードな顔つきのデザインを目指した。
今村さんが召集したオフコマーシャルの制作布陣は強力だった。コピーライターに中村禎さん。撮影は蓮井幹生さん。今村さん含めクリエイティブに関して一家言ある先輩方。よって企画の打ち合わせもスムーズに進まない。しかし、中村さんが書いてきた一行のキャッチコピーで展望が開けた。
「九州の素材だけでつくりたかった、毎日のおいしさ。」
村岡さんの九州に対するこだわりと情熱、そして商品に対する想いがこの短いコピーに込められている。この言葉が背骨となり、今村さんからの提案から2年の制作期間を経て、オフコマーシャルは完成した。
村岡さんの九州に対するこだわりと情熱、そして商品に対する想いがこの短いコピーに込められている。この言葉が背骨となり、今村さんからの提案から2年の制作期間を経て、オフコマーシャルは完成した。
発売から8年。現在、九州パンケーキは「九州発の」パンケーキミックスとしてメジャーな存在となり、国内外で販売されている。ここまで愛される商品になったのは、村岡さんの九州に対する情熱と努力、そして商品力があったからこそだが、オフコマーシャルの存在が飛躍のブースターとなったのは間違いない。
秘めた本質を見極め、パッケージデザインにすら変更を求める。
ほんとうのクリエイティブディレクションとはこういうことを言うのかもしれない。
今村さんと出会った九州パンケーキは幸福なパンケーキだと思う。
ほんとうのクリエイティブディレクションとはこういうことを言うのかもしれない。
今村さんと出会った九州パンケーキは幸福なパンケーキだと思う。
制作予算調達のため、CM制作としてはおそらく日本初のクラウドファウンディング
を実施。コンセプトに共鳴してくれたたくさんの方々からフォローがあり達成した。
九州へのロケは九州沖縄の翼・ソラシドエアに全面的にバックアップいただいた。
このコマーシャルは多くの「共感」があったからこそ出来上がった。
を実施。コンセプトに共鳴してくれたたくさんの方々からフォローがあり達成した。
九州へのロケは九州沖縄の翼・ソラシドエアに全面的にバックアップいただいた。
このコマーシャルは多くの「共感」があったからこそ出来上がった。
CREATIVE STAFF
企画・演出 | 今村 直樹 | インテリアスタイリスト | 浜崎 はるみ |
カメラマン | 蓮井 幹生 | オフライン | イワサキ ユキオ |
コピーライター | 中村 禎 | オンライン | 大西 博之 |
アートディレクター | 日高 英輝 | サウンドエフェクト | 小森 護雄 |
プロデューサー | 牛島 弘識 | 作詞・作曲・編曲 | 佐藤 彰信 |
撮影チーフ | 三浦 耕 | 歌唱「Happy Pancake」 | アン・サリー |
髙橋 慶次 | 音楽プロデューサー | 渡辺 秀文 | |
録音・ミキサー | 北原 慶昭 | レコーディングエンジニア | 栄田 全晃 |
日野 利信 | デザイン / GritzDesign | 佐々木 俊 | |
フードスタイリスト | 斗澤 郁子 | 梶川 遥 |
デザインするうえで意識したのは「九州の素材だけでつくりたかった、毎日のおいしさ。」というメッセージをしっかりと主張させること。穂の背景にある山々は九州各県の名峰をモチーフにしている。
増産が続き、効率性とコストの観点から手張りのラベルから印刷に変更したいとの申し出があったが、この商品は手張りラベルであることに意義があると訴え、今でも丁寧に手で貼り付けられている。
増産が続き、効率性とコストの観点から手張りのラベルから印刷に変更したいとの申し出があったが、この商品は手張りラベルであることに意義があると訴え、今でも丁寧に手で貼り付けられている。
九州パンケーキシリーズの3年ぶりの新商品『和紅茶』が発売されました。
「ふわもち食感」「豊かな雑穀の風味」はそのままに、鹿児島志布志・和香園で作ら
れた和紅茶の上品な風味をブレンドした自信作だそうです。ぜひご賞味ください。
「ふわもち食感」「豊かな雑穀の風味」はそのままに、鹿児島志布志・和香園で作ら
れた和紅茶の上品な風味をブレンドした自信作だそうです。ぜひご賞味ください。
Link: 九州パンケーキ 和紅茶