『映画に愛をこめて』

『映画に愛をこめて』

『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』が最初に劇場鑑賞した映画だった。
劇場といっても、近所の公民館広間を暗幕で囲った即席映画館。
それでも暗闇のなか、体育座りしながら見知らぬだれかと一緒に固唾を吞む体験は、
テレビの映画鑑賞とはまったく違う共有感と没入感、そして未経験の興奮をもたらした。

中学時代のある日、映画好きの悪友たちと街なかの映画館に行こうとなった。
お目当ては『ピンクパンサー』。地方のおバカな男子たちにうってつけのドタバタコメディ映画。
この人気シリーズが多感な時期に連続公開されたがために、
映画という表現が人生にとって必要不可欠になってしまった。

当時の地方映画館は、新作映画が数ヶ月遅れで公開されるのが常だった。
よって同時期公開の映画と併映になるケースが多かった。
観たい映画は『ピンクパンサー』なのに余計な映画が付いてくる。
何事にも旺盛な青春時代、映画館に4時間篭るのはつらい。せっかく街なかに繰り出しているのに。

『ピンクパンサー2』は抱腹絶倒の快作だった。
大いに満足してこの後どうする?という話になった。
併映の映画は精神科病院を舞台にした暗そうなストーリーらしい。
めんどくさそうという声もあったが、お金もないし併映の映画を暇つぶしに観て帰ろう。
その映画は『カッコーの巣の上で』という作品だった。

なんかとんでもないものを観てしまった、という感想でしかない。
『ピンクパンサー2』の余韻はふっとび、あまり会話を交わさないまま帰路についた。
みんな思いおもいに目撃したものを反芻していたに違いない。

卒業を間近に控えた春、またピンクパンサーの新作が公開された。
『ピンクパンサー3』は最高にくだらない傑作だった。
前回同様、この後どうする?という話になったが、お金もないしもう一本観て帰ろうとなった。
鑑賞後、全員シャドーボクシングしながら劇場を後にしていた。
併映の映画は『ロッキー』だった。

クルーゾー警部はおバカなお笑いだけでなく、
アカデミー作品賞の中でも指折りの2作をひっさげてやってきたのだ。

この振幅の激しい強烈な映画体験が、映画という表現の広大さと奥深さを教えてくれた。
わずかなお金で、束の間でも未知なる世界と遥かな創造の旅に誘ってくれる。
以来、映画を鑑賞することは生きていく上で欠かせない糧となり現在に至る。

好きな映画は何か?とよく質問されるが、たくさんありすぎて答えようがない。
好きな監督も同様だが、映画づくりにまつわるタランティーノ監督のエピソードは大好きだ。
モノ作りに携わっているすべての人が共感できるであろう制作の現場。

100テイクごとに振り返って「なぜもう一度撮り直さなくちゃならない?」と問い、
タランティーノ監督が「それは~~~!?」と投げかけると、
スタッフ全員で「それは、映画を作るのが好きだから!」と叫ぶ。

いいなぁ。
人生の糧を提供してくれたすべてのフィルムメーカーに、尊敬と感謝の念を。

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