『映画に愛をこめて 2』 〜徒花 ADABANA〜

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『映画に愛をこめて 2』 〜徒花 ADABANA〜

映画、よく観てますよねと言われることが多い。
鑑賞後のザクっとした感想など、たまにSNSとかでアップしているからだと思う。どの映画を観るか参考にしてるという知人もおり、へんな義務感で基本おすすめできる映画しか上げないことにしている。推奨しない作品も観ているわけで、予定のない週末はほぼ映画館に通っていることになる。

(映画という表現が人生にとって必要不可欠になってしまった経緯は、過去に書いたコラムを参照ください。→ https://www.gritz.co.jp/column/cinema/

その昔、2ヶ月ほど無職状態になったことがあり、やることなくて宮崎の実家に帰郷。やることなくて近所のレンタルビデオ屋に足繁く通い、50本ほどの未見の映画を観続けていたことがある。ある日、俺はいったい何をやっているのだ?と気づき急遽帰京。運良く社会復帰できたのだが、ビデオ屋通いはそのまま続いた。

時はバブルで仕事は忙殺状態。ビデオ鑑賞する暇などなく、未鑑賞のまま多額の延滞金をプラスして返却するという事態が頻発。延滞金総額でビデオデッキが買えたのではないか?そういう意味で現在のサブスクリプションな環境は映画好きにとって天国だ。観たい映画をいつでも簡単に視聴できるし、なにより憎き延滞金がない。

しかしそれでも映画は映画館で観たいと思う。上映時間を調べ、席を予約し、安くない料金を支払い、わざわざ電車で出向くという煩わしさはあるが、その対価として暗闇の没入感を得られる。映画館では電話もかかってこないし宅配便も届かない。一時停止ボタンもないのでスクリーンに集中するしかない。それが映画館で鑑賞する価値だ。

多くの映画は映画館で上映されることを前提として作られ、監督はスクリーンを見つめる観客の眼差しを意識しながらフィルムメイクしているはずだ。膨大な時間と労力を費やし、上映時間の制約と戦いながら編集を重ね渾身の一本にまとめあげる。そんな作品と対峙しメッセージを受け止めるのは、真っ暗な映画館での鑑賞がベストだと思う。

「久しぶりに映画の仕事やんない?」旧知のコピーライターSから電話があった。
「でも金はない」という映画仕事の常套句が続くわけだが、愛する映画の仕事であり、ことわる理由もないので引き受けることにした。Sとは過去にアレハンドロ・イニャリトゥの「21g」など、いくつかの映画仕事を手がけたことがあった。

お互いシネフィルを自認しており、会うと必ず映画の話になるのだが、最近とにかく名前が出てこない。監督名、役者名・・。Sの携帯の写真ホルダーを見せられたことがある。50人ぐらいの推しの役者の顔がずらりと並んでいた。名前を忘れないため、が目的らしい(笑)。全員知った役者だったが、半数も答えられなくて激しく落ち込んだ。

『徒花 ADABANA』という作品が公開を控えている、この映画のタイトルロゴやポスターなどのグラフィックを手伝ってほしいという依頼だった。監督は新進気鋭の映画作家、甲斐さやか。前作『赤い雪 Red Snow』は国内外で高い評価を獲得しており本作は待望の長編2作目にあたる。

タイトルの徒花とはソメイヨシノのことだ。咲いても実を結ばずに散る、自己増殖できないクローン桜。「むだ花」とも称されるこの花を象徴として、人間の生きる意味を問いかけるストーリー。主演は井浦新と水原希子。三浦透子、斉藤由貴、永瀬正敏、甲田益也子など魅惑的なキャストが脇を固める。

映画のキービジュアルとして「デカルコマニー」という表現技法を採用した。精神鑑定の一つであるロールシャッハ・テストでも使用される不可思議なイメージは、同一別個体を生成するクローン技術と「転写」という意味で類似し、色の掠れや歪みなどの微妙な差異が、この映画の美しくも不穏な内容にふさわしいと考えた。

『徒花 ADABANA』は、10月18日(金)よりテアトル新宿ほか全国にて順次公開。
ぜひ、暗闇の映画館でご鑑賞ください。


 

CD,C / Yasuhiko Sakura[nakahata]
AD / Eiki Hidaka
D / Yuka Miura, Yuji Ishibashi
Décalcomanie / Eiki Hidaka, Yuji Ishibashi
P(Cast)/ Masatoshi Nagase